Contents tourism(014)(015)「Case study presentation」

演習の最終回は事例研究発表会。舞台訪問ツアーで扱った作品とプラスαを発表する。
動物のお医者さん』、『星空のメモリア』、『ゾンビランドサガ』の事例について発表してきた。
ここでは『動物のお医者さん』、『星空のメモリア』についてまとめておく。
ゾンビランドサガ』のレジュメは過去記事参照。

最終回を迎えるにあたっての教授からのお言葉

  • メディアミックスの境界領域
    • 小説・ドラマ・アニメ・漫画・ゲーム・ラノベ・映画など1つの作品から様々なメディアミックスが生まれるが、コンテンツツーリズムは各種メディアの境界領域の接点としての可能性を秘めている。
  • 歴史も一種のコンテンツ
    • コンテンツツーリズムでは実際に現地に行って、風土や歴史に触れる。その際、歴史については唯一絶対の歴史など存在せず語られ方によって解釈のされ方が異なる。新しい史料の発掘や、新たな通説の流布によって歴史は書き換えられていく。その点で、歴史も一種のコンテンツと言える。コンテンツツーリズムとヘリテージツーリズムと歴史の関連性について意識する必要がある。

発表1.『動物のお医者さん』(北海道札幌市)

(1)作品の魅力

①作品構造とストーリー展開の特徴
  • a.作品構造は1話完結読み切り型!
    • 動物のお医者さん』は佐々木倫子先生によるH大学獣医学部を舞台にした動物コメディである。作品構造としては、1話完結の読み切り型で、どこから読んでも楽しめる。図書館で前の巻が借りられていても途中の巻から読んでも全く問題がない。パラパラめくって気になったところから読むことができる。作風のコメディも品性のない下品な笑いではなく、ウィットに富んだ「おかしみ」に溢れているので、気分が落ち込んだときの気晴らしや、隙間時間の暇つぶし、旅のお供にと最適である。
  • b.ストーリー展開はエッセイ風大学研究生活
    • 物語の時間軸としては、主人公のハムテルが高校3年の冬にH大を受験する前から始まり、H大大学院博士課程2年で病院を開業する決意をする所まで描かれている。明確な年代は示されないが、アルベールビルオリンピックが登場することから、1986年度(高3)~1994年度(D2)の期間の話だと判明する。
    • タイトル通り動物がいっぱい出てくるので、動物好きにはもちろんおススメなのだが、この作品の真骨頂は大学研究生活である。大学の研究は蛸壺化する傾向があり、各学部で何をやっているかイマイチ不明瞭なところがある。獣医学部なのだから獣医になるための学部だろう?という程度の認識はあろうが、実態はよく分からない。しかしながら、この作品を読むことで、獣医学部の研究ライフをよく知ることができるのだ!病院講座以外にも、公衆衛生学講座や繁殖学講座、伝染病学講座などが頻繁に登場し、研究生活の一端を垣間見ることができる。作者の佐々木倫子先生は、作品を描くにあたって取材や読者から経験談を募るなどネタ集めを丁寧に行っているため、たとえフィクションとはいえ事実に基づいた題材であるため、まるで良質なエッセイを読んでいるかのように、獣医学部の研究ライフを堪能できる。
②キャラクターの魅力
  • a.個性あふれる人物と動物
    • 動物のお医者さん』には独自の感性を持った人物や動物がたくさん登場する。ドライでクール、爺さんっぽい落ち着きと称される主人公の「ハムテル」や、ハムテルがクールな分人間味溢れる部分を一挙に引き受けている友人の「二階堂」、本作のヒロイン?であるメスのシベリアンハスキー犬チョビなど、ここでは書き尽くせないほどだ。
  • b.漆原教授
    • 魅力あるキャラクターがひしめく中で特に異彩を放っており特筆せねばならない人物がいる。それが漆原教授だ。北海道大学獣医学部の名誉教授橋本信夫がモデルとなっており、大変ユニークな人物として描かれている。主人公のハムテルが獣医学部の学生という立場なので、そのものズバリのお医者さんはまさに漆原教授。ハムテルたちは漆原教授を見て獣医になるのである。
    • ハムテルがクールなキャラ造形として設定されているので、ストーリーを動かす役は漆原教授が中心になることが多い。一見すると破天荒で、アフリカグッズを蒐集し、汁粉ドリンクを爆発させたり、違法駐輪をする高校生に牛糞を食らわせたり、建物の屋上に水を撒いて凍らせスケートをしたりと枚挙にいとまがない、やりたい放題だ!しかしながら漆原教授は、自分の利益にならなくとも病院が活性化すればそれでよいと文化祭の「1日獣医さん」に参戦したり、気合を必要とする手術では熟練した技術を見せたりするなど、カッコ良い老年っぷりを発揮して読者たちを魅了してやまない。本作品は漆原教授以外にも、ハムテルの祖母西根タカや公衆衛生学講座の菅原教授などステキな老年が登場し、味わい深さを醸し出している。

(2)舞台地の魅力「北海道大学

  • 本作品は、北海道大学をモデルにしている。しかもキャンパス内がただ登場するだけでなく、一つ一つの場所がストーリーと絡められた上で登場するので、その土地ならではのエピソードが作品の面白さを増加させている。以下には作品に登場する舞台を厳選して紹介する。
①クラーク胸像
  • ハムテルの親友、二階堂の従妹(二階堂里穂・高3・獣医志望)が北大を受験に来た時待ち合わせに使用した場所。しかし二階堂里穂はハムテルたちと出会うことができなかった。なんと二階堂里穂はクラーク像をすっかり勘違いしていたのだ。クラーク先生といえば少年よ大志を抱け(Boys be ambitious)で有名であるが、北大にあるのはクラーク胸像であり、一般の人々がイメージする指を指しながらポーズを決める全身像ではない(そちらは羊ヶ丘展望台にあるクラーク像)。このクラーク像イメージギャップあるあるを見事に組み込んだことでシナリオの「おかしみ」が増し、印象的となった。
②ポプラ並木
  • 北大と言えばポプラ並木で有名なのだが、なんと北大には幾つものポプラ並木が存在する。ホンモノのポプラ並木に辿り着けないあるあるが存在するのだが、そのギミックがネタとしてシナリオにも利用されている。上述の二階堂里穂は北大観光をしようと試みるのだが、間違って獣医学部のポプラ並木に行ってしまうのだ!作中では普通に車も走っている道路として描かれているが、現在はエルムトンネルになっているので、舞台探索には注意が必要な場所だ。むしろ、『動物のお医者さん』の聖地巡礼者は、こちらを探す方がメインとなるかもしれない。
獣医学部
  • 主人公のハムテルたちの学び舎がこちら。獣医学部正面は作中でも描かれている和やかな場所である。舞台訪問をする際には、標本展示室もお忘れなく。入り口前のホールにはアフリカグッズが飾られており、漆原教授をさりげなく醸し出しているので必見だ。中に入ると驚く勿れ。骨格標本やトドやカマイルカの腎臓や寄生虫を見ることができる。ぜひハムテルたちの研究ライフに思いを馳せてもらいたい。

(3)まとめ

  • 以上のように、『動物のお医者さん』は、ウィットに富んだ味わい深い笑いを堪能することができ、様々な種類の動物を通して大学研究生活の様子を学びつつ、北海道大学の魅力を感じることができる素晴らしい作品である。ぜひ、本作品を読んで、北大を訪れ、『動物のお医者さん』の世界観を追体験して欲しい!

発表2『星空のメモリア』(北海道小樽市)

(1)作品の魅力

  • 星空のメモリア』は天体や隕石をモチーフにしながら、問題を抱える複雑な少女たちを救済することで死生観や家族愛を描き出すノベルゲーである。
①作品構造とストーリー展開の特徴
  • a.幼少期の残渣と幻影の少女
    • まず特筆すべきウリは幼馴染モノとしての作品の良さである。物語は主人公が母の死を契機に故郷へ戻ってくるところから始まる。そこで主人公はヒロインたちと天体をテーマとしたイベントをこなしつつ、フラグ構築を目指していく。しかしながら、ヒロイン攻略などはっきりいってどうでもよろしい 。ここで重要なのは、主人公の想い出の中にある少女像なのである。
    • 主人公は複雑な家庭環境にあり異父妹を抱えた母子家庭で育ったため、苦労の連続だった。幼い妹の面倒を見ながら、仕事に出た母親の代わりに家事を代行する日々。そんな主人公の癒しとなったのが、アルビノの少女との交流だったのだ。主人公くんは夜になると家を抜け出し展望台へと足を運んで夜景を眺めることを癒しとしていた。そこで出会った白髪赤眼の少女は主人公くんの抑圧された日々を解放させる存在となっていったのである。特別な存在の少女と日常から切り離された時間を共有するという、幼馴染モノとしては至高の展開である。
    • 成長後、主人公は思い出の中の少女が忘れられず、再び展望台へと足を運ぶ。しかし、そこで目にしたものは、時間が流れているにも関わらず、幼少期の時と瓜二つある幻影の少女だった。主人公はこの少女に導かれるかのようにシナリオを進めていくことになる。
  • b.ホスピス少女の生きた証
    • それでは幼少期に交流した本物の少女はどこへ行ってしまったのだろうか。彼女はなんとホスピスであり、幼少期には病院を抜け出した際に主人公と出会い交流が始まったことが明らかになる。旧交を温め、意気投合する二人だったが、主人公の好意を少女は拒絶する。それは自分がホスピスでもうすぐ死ぬからであり、主人公の好意を拒絶し、他の女と結びつかせ、幸せな生活を送らせることが、少女にとっては生きた証だったのである。この少女の主人公を想うがゆえこその面倒くさい拗らせっぷりがシナリオの深みを増加させておりとてもグッとくる展開になっている。主人公は少女の拒絶の意図を読み解き、意固地さを解きほぐして、本当は主人公を人一倍求めている少女の孤独を癒してフラグ構築に成功する。
  • c.自己肯定感と家族
    • 病気が治り、主人公くんと結ばれたアルビノの少女。懇ろな関係になり病院では体験できなかった穏やかな日常を過ごしていく。しかし、少女の心には不安がこびりついていた。それは、自分がもう何の役にも立たないということであった。病院暮らしが長く、学歴もなければ家事スキルにも乏しく、病み上がりのため病弱で、しかも将来に対して特にやりたいことも見いだせないという現実に愕然とするのだ。そんな少女が自分の足で立つことをサポートし自己肯定感を抱けるように支援していくのが、我らが主人公の役割なのである。そして主人公はその過程の中で、複雑な家庭環境の真相を知り、今度は自らの家族を持つことになる。まさにこれはもう人生だな!!!星メモは人生。
②キャラクターの魅力
  • a.真ヒロイン:乙津夢さん
    • 上述したアルビノの少女の真名が乙津夢である。主人公よりも年上であるため、やたらとお姉さんポジションを取ろうとするも、結局は主人公に甘える形となってしまうところがグッとくる。しかしながらこの姉キャラポジションから発生する母性を有しているからこそ、主人公の心の束縛を解放できるのである。複雑な家庭環境で育った主人公は、早くから自立しており、しかも自制心が強かったが故に、自分の心をありのままに晒すことができなかった。それ故、母の死後自分を引き取ってくれた叔母(母の妹)に対しても遠慮しがちであり、実父ともわだかまりがあった。このような状況の中で、主人公に対して人に頼ってもいいのだ、甘えてもいいのだということを、身をもって教えてくれるのが乙津夢なのである。夢は自分には何もないのだと自己肯定感を持てずにいたが、主人公にとってどんなに救いとなっていたことか推して知るべしである。

(2)舞台地の魅力「小樽市

①旭展望台
  • 主人公が乙津夢と情交を育む特別な場所である。上述した通り、病院を抜け出していた幼少期の夢が主人公と出会った場所であり、ここが二人の密会の会場となったのだ。また成長後に帰郷した主人公が、幻影の少女メア(幼年期の夢の姿を模した少女)と出会う場所でもある。それ故、この時のイベントCGはプレイヤーたちにとっては心に刻まれるものとなっており、現地に行って瞼を閉じればその姿が眼前に浮かんで来よう。手すりの上に腰かけているメアがまるでそこにいるかのようだ!!!
  • さらに、数々の困難を乗り越え、乙津夢と再会した主人公がこの場所で旧交を温めるのだが、髪をかき上げながら主人公に語り掛ける夢の横顔は儚くて、思い起こさば脳内でBGMがひとりでに奏で始めるほど。跪き悔恨する主人公を抱きしめて赦しを与える姿が彷彿とされてくることこの上ない。
手宮公園から見た小樽港
  • 星空のメモリア』は小樽市を舞台としているため、他にも小樽運河やオルゴール堂、小樽稲荷神社なども思い入れ深い場所となっているが、もう一つだけ挙げるとするならば、手宮公園から眺めた小樽港の風景である。ゲーム本編にはこの場所は登場しない。では、どこで出てくるのか?それは多くのプレイヤーが一番目にすることになる、ゲーム起動時に現れるタイトル画面の画像なのである。『星空のメモリア』が発売されてからもうすぐ10年に届こうとしている が、2018年に現地を訪れた際には、ゲームをプレイした時の感動がまざまざと甦ってきた。ゲーム本編に登場しないので忘れられがちだが、聖地巡礼の際には是非、手宮公園から小樽港を眺めてみて欲しい。

(3)まとめ

  • 以上のように作品のシナリオの質も高く、キャラクターもとても可愛く、テキストもテンポよく進む。家族愛の要素には泣き、死生観を描いた展開では人生について思いを馳せることができる。また小樽市の各地がイベントの重要地点となっているので、より一層作品の幻想的な雰囲気を醸成させるのに役立っている。おススメ!!